普通借家契約の更新と連帯保証人(個人)の責任

【問】改正民法施行前である2019年6月1日から、期間2年による普通建物賃

      貸借契約を締結し、借主Aの親族Xが連帯保証人となった。このときは、改正

      民法施行前だったので、連帯保証人の責任範囲の上限を示す極度額は定めなか

      った。
         以下の場合で、この賃貸借契約の更新後に生じた家賃の滞納について、連帯

      保証人は責任を負うか?
【小問1】連帯保証人が極度額の定めのない更新契約書に署名・押印した場合
            改正民法施行後である2021年5月に普通建物賃貸借契約を更新する際

         に、連帯保証人Xが引き続き借主Aが負担する債務を連帯保証する旨の条項

         が定められ、保証の範囲についての極度額の定めがない更新契約書について、

         連帯保証人Xに署名押印させた場合。
【小問2】連帯保証人は更新契約書の締結に関与せず、貸主及び借主だけが署名・

          押印した場合
             改正民法施行後である2021年5月に普通建物賃貸借契約を更新する際

          に、連帯保証人Xには、更新契約書に署名・押印をさせず、貸 主・借主だけ

          が署名・押印して更新契約書を取り交わした。また、連帯保証人Xと貸主と

          の間では、更新に関する書面の取り交わしはしなかった場合。

  1.  【小問1】連帯保証人が極度額の定めのない更新契約書に署名・押印した場合
    1.  更新後の連帯保証契約は無効とされ、滞納賃料について、連帯保証人Xは責任を負わないこととなるリスクが生じる。
    2.  法務省の担当者が神奈川県弁護士会において説明したところによれば、民法改正前の建物賃貸借契約に関する連帯保証契約について、民法改正後に合意によって更新された場合、更新後の連帯保証契約には、改正民法が適用されるとのことであった。 
    3.  法務省の担当者が執筆した「一問一答 民法(債権関係)改正」(㈱商事法務発行)では、Q205(383頁)で普通借家契約が更新された場合の改正民法の適用の問題が取り上げられているが、この解説でも、「賃貸借契約について合意更新がされる場合には、賃貸借に関する規定(新法第601条以下)の改正については、新法が適用される。」、「合意によって保証契約が更新された場合には、この保証について、保証に関する新法の規定が適用されることになることは言うまでもない。」とされている。
    4.  以上の見解によれば、本問の建物賃貸借契約の更新後の連帯保証契約は、改正民法施行後に、連帯保証人が更新契約書に署名・押印した場合、合意によって連帯保証契約が更新されたものとして扱われ、改正民法第465条の2第2項が適用されるものと考えられる。
       この場合、更新後は、極度額の定めがない根保証契約となるから法律上無効となってしまう。
    5.  法務省の上記見解を踏まえた貸主・賃貸管理業者等の実務上の対応
       判例が確立されるまでは、法務省の見解に留意して、以下のように対応すべきである。

      1.  改正民法施行前の連帯保証人の責任について、極度額を定めないようにしたいのであれば、賃貸借契約の更新時に連帯保証人に署名・押印させて更新契約書を作ってはならない。
      2.  同様に、貸主と連帯保証人との間で、連帯保証契約を更新する旨の合意書や確認書も作成してはならない。
      3.  実務上理想的な処理は、更新契約書を作るのであれば、貸主と借主とだけで署名押印し、連帯保証人には「合意更新したので合意更新後も連帯保証人の責任は継続する。」旨の通知を出す。この通知は、連帯保証人に連帯保証していることの自覚を持ってもらうための処理である。
  2.  【小問2】連帯保証人は更新契約書の締結に関与せず、貸主及び借主だけが署名・押印した場合
    1.  更新後に生じた滞納賃料について、連帯保証人Xが責任を負うこととなる。
    2.  この場合は、貸主と連帯保証人の間で、改正民法施行後に連帯保証契約についての新たな合意が成立していないので、従来どおり、極度額の定めがないままの連帯保証契約の効力が継続し、連帯保証人が責任を負うこととなる。
    3.  「一問一答 民法(債権関係)改正」(㈱商事法務発行)384頁では、改正民法施行前に締結された普通建物賃貸借契約について、連帯保証人がいた場合、その保証責任は、更新後の契約に基づいて賃借人が負担する債務に及ぶとの判例の考え方(最判平成9年11月13日)は維持され、改正民法施行後に賃貸借契約が更新された場合でも、連帯保証人の責任は、極度額の定めがなくても存続すると解説されている。
    4.  実務上は、連帯保証人の責任が賃貸借契約の更新後も続くことを認識してもらうために、更新契約書に改めて連帯保証人の署名捺印をさせることが行われている。
       しかし、改正民法施行後に同様の処理をしてしまうと、更新契約書に連帯保証人の責任の極度額の定めがない場合に、保証契約が無効となってしまう。
       その一方で、連帯保証人を更新契約に関与させずにおけば、連帯保証人は、改正民法施行前の責任、つまり、極度額で制限されない根保証責任を負い続けることとなる。
       このような解釈が果たして合理的なのかという点には、疑問が残るが、法務省担当者の見解を前提とすれば、これまでの契約更新時の連帯保証人に関する実務処理を見直さなくてはならない。