高齢者の不動産取引

 不動産売買の仲介をすることになりました。売主は90歳と高齢ですが、会って意思確認したところ、売買契約の内容を理解できているか心配です。どのような点に注意して仲介をしたらよいでしょうか?

  1.  意思能力がない場合の契約の効力
    1.  意思能力(事理弁識能力)を欠き、自分の所有物を売却するかどうかや、売却する場合にどの程度の値段で売却するかなどの契約条件について、合理的な判断ができない者が行った契約は無効です。
    2.  もともと、民法は、「売買したい。」とか「贈与したい。」等その人の意思に基づいて法的な権利義務を発生させていましたので、意思能力のない人による契約は、解釈によって無効であるとされていました。
       もっとも、2020年4月に施行される改正民法では、この点が明文で定められることになりました。
       改正民法第3条の2 
             法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
    3.  したがって、意思能力がないと判断される場合には、売買契約も有効に締結することはできませんので、仲介をしてはいけません。
  2.  意思能力があることの確認
    1.  どのような状態であれば、意思能力があると判断してよいのかが問題となります。
      1.  売主が高齢であっても、どの不動産を売ってもよいか、いくらなら売ってもよいか、何故売りたいのかの説明を具体的に話すことができるような状態であれば、意思能力があると判断してかまいません。
      2.  これに対し、売主が売却の目的の不動産がどこにあるか答えられなかったり、売却金額について全く適正な判断をしているとは思えない金額を述べたり、売却を希望する理由を説明できないような場合には、意思能力がないと判断される可能性が高くなります。
      3.  特に、親族の一人が立ち会い、売主本人に代わってやりとりを行い、売主本人が全くその説明に納得している様子がないような場合には、売主本人の意思能力が認められない可能性があります。
    2.  前記で仮に売主の意思能力があると判断できる場合でも、高齢者は短期間のうちに判断能力がなくなる可能性があり、契約時には意思能力はあっても決済時には意思能力がなくなっている場合もあるので、後で契約の有効性が争いになることを防ぐために、証拠を残しておくことが必要です。
    3.  例えば、意思能力があることを証拠として残す方法として、以下のような対応が考えられます。
      1.  売買契約直前に医師の診断書を取得しておく。
      2.  会話で意思確認を行い、本人が契約内容を理解できている様子を録音テープに残しておく。
      3.  登記申請を行う司法書士に、契約時に立ち会ってもらい本人に意思能力があったことの証人になってもらう。
      4.  公証役場において、公証人関与のもと、公正証書で売買契約書を作成する。
  3.  決済日の注意
    1.  売買契約を締結してから決済日まで期間があるような場合には、売買契約締結時には意思能力があったものの、その後認知症等が進み、決済時には意思能力がなくなっている、というような場合があります。
    2.  このように決済時に意思能力がないと、司法書士は所有権移転の登記申請を受任してくれません。
    3.  売主において所有権移転登記ができないと、買主から契約解除・違約金などの責任を追及される可能性があります。
    4.  そこで、上記のような事態を避けるために、意思能力の確認ができる売買契約締結時に、併せて、決済・所有権移転登記も即日行うのが、理想的ですが、融資等の関係で契約時と決済時の間に時間を置かなければならない取引も多いと思います。
       このような場合には、売主側では、「意思能力がないために決済日に移転登記ができない場合には売買契約は当然に白紙解約される」旨の特約を設けることで、リスクの軽減を図ることが考えられます。