所有者不明土地・建物管理制度
所有者不明土地・建物管理制度とは、どのような制度でしょうか?どのような場合にこの制度を活用することができるでしょうか?
- 所有者不明土地・建物管理制度
- 令和5年4月1日に施行された改正民法では、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地・建物について、裁判所が所有者不明土地・建物管理人を選任し、管理を命ずることができる制度(以下、「所有者不明土地・建物管理制度」といいます。)が新設されました(民法264条の2第1項、同264条の8第1項)。
- 上記改正がされる前においても、所有者が不明となっている土地建物を管理する制度として、不在者財産管理人制度・相続財産清算人制度(従来は相続財産管理人制度)等がありました。
しかし、これらの制度については、問題となっている土地建物だけではなく、不在者等の他の財産や他の相続財産全般を管理人が管理することとなるため、管理人の報酬や費用に充てるための予納金の額が高額になることや、共有不動産のうち複数名の所在が不明であると、不明者毎に管理人を選任する必要があり、更にコストがかかってしまうという問題が指摘されていました。 - これに対し、所有者不明土地・建物管理制度は、特定の土地・建物についてのみ管理を行うことを可能とする制度であるため、申立人が、当該土地建物以外の財産を管理するための予納金を支払う必要はなくなりますし、複数の共有者が所在不明になっている場合でも、一人の管理人を選任することが可能となります。なお、事案の内容にもよりますが、横浜地方裁判所では、所有者不明土地・建物の申立にあたっての予納金は20万円~22万円程度とされることが多いです。
- 所有者不明土地建物管理制度の要件
- 所有者不明土地・建物管理制度を申し立てる要件は、①「所有者不明」の土地・建物であること、②管理人に土地・建物を管理させる必要があることの2点となります。
- 「所有者不明」とは、「所有者を知ることができず、または(所有者の名前はわかっているが)その所在を知ることができないこと」を意味します。
- 例えば、個人が登記名義人である土地・建物の場合は、不動産登記簿や住民票上の住所等を調査しても、その個人の所在が明らかでないケースや、個人が死亡しているが、その相続人の存否等が不明であるケース等がこれにあたります。また、法人が登記名義人である場合は、法人の登記簿上の主たる事務所及び代表者の法人登記簿、住民票上の住所等を調査しても、その法人の事務所及び代表者の所在等が明らかでないケース等がこれに当たります(本店所在地に法人の本店がなくても、法人の登記簿謄本が取れ、謄本にある代表者がその住所地(自宅)にいれば、代表者と交渉できることから「所有者不明」にはなりません。)。
- 上記要件を満たす場合、所有者不明土地・建物に利害関係を有する者であれば、申立をすることにより、裁判所は所有者不明土地・建物管理人を選任し、当該管理人による土地管理・建物管理を命じる所有者不明土地・建物管理命令を出すことになります(管理対象が土地のみであれば、申立をするのは所有者不明土地管理命令の申立てのみとなります。)。
- 一般的には、以下のような者であれば利害関係があるものと考えられています。
- 土地の管理不全によって不利益を被るおそれがある隣接地所有者
- 一部の共有者が不明の場合の他の共有者
- 土地を時効取得したと主張する者
- 土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者や民間の買受希望者
- 具体的な活用方法1(隣地の廃屋の取り壊し)
- 所有者不明土地・建物管理制度は、隣地に廃屋がある場合に、その取り壊しを実現するために活用することができます。例えば、不動産業者が建売分譲したい土地の隣地に所有者不明の築後90年を経過した廃屋(土地・建物の所有者は同一)があり、建売の建物を建てても、隣地の廃屋が倒れかかってきたり、台風で隣地の廃屋の屋根等が飛ばされて、建売の新築建物が被害に遭う危険があり、このままでは買い手がつかないといったケースです。
- このような場合、不動産業者は、所有者不明土地・建物の管理人を裁判所に選任してもらい、管理人をして、裁判所の許可を得て建物の解体をしてもらうことができます。管理人は、管理対象の土地・建物を現状維持するのが原則ですが、建物が築後90年を経過した廃屋であり、倒れかかってきたり屋根等が飛ばされる危険があるのであれば、裁判所の許可を得て、例外的に解体が認められる可能性が高いといえます。
- また、管理人に事情を説明して、建物を解体撤去してもらい、その費用は管理人に土地を売却して調達してもらうことで捻出するという方法が取れる可能性もあります。
- 具体的な活用方法2(境界確定)
- また、所有者不明土地管理制度は、境界確定のためにも活用することができます。不動産業者が分譲予定地について、隣地所有者から境界承認を得たいが、隣地について、明治時代の所有権移転登記から登記名義が移転しておらず、近隣住民に聞いても、当該登記名義人の生死、所在等が全く分からないといったケースです。
- 従前は、本件のようなケースでは、法務局の筆界特定手続か、不在者財産管理人を選任したうえで境界確定訴訟(あるいは境界確定の交渉)をするしか方法がありませんでした。
- 上記のような手続に加えて、本件のようなケースにおいて、裁判所から、所有者不明土地管理命令を出してもらい、管理人を選任してもらうことで問題を解決することが可能となっています。
- すなわち、選任された管理人と協議して、境界確認書を取得するか、選任された管理人がその権限で、任意に境界確認をすることができない状況であれば、管理人を被告として境界確定訴訟を提起することとなります。
- また、これに加えて、所有者不明の隣地を買い取り、分譲地に編入できれば境界確定の解決方法の一つとなります。所有者不明土地管理人は、「所有者不明土地の解消」が職務であるため、(適正価格であれば)裁判所の許可は必要となりますが(民法264条の3第2項)、隣地を売却してもらいやすいものと考えます。また、隣地を売却できれば、この売却代金から、管理人の報酬や費用をまかなうことができます。