管理不全土地管理制度
私の家の隣地は空き地となっていますが、長年にわたって適正な管理がされておらず、無断で粗大ゴミ等を不法投棄する者が多く、生活環境に悪影響が生じています。土地の所有者はいますが、所有者に何度対応を求めても、一向に対応してくれません。何かよい対応方法はないでしょうか?
- 本件のような場合、裁判所に管理不全土地管理命令を申し立てて、所有者に代わって管理人に土地を管理してもらうという方法があります。
- 令和5年4月1日に施行された改正民法により、管理不全土地管理命令に関する規定(民法264条の9ないし13)が新設されました。これにより、一定の要件を満たす場合には、裁判所は管理不全土地管理人を選任し、その者に土地の管理を命じることができるようになりました。
この制度は、土地の擁壁にひび割れがあり隣地に倒壊するおそれがある場合や、ゴミの不法投棄等で周囲に悪臭や害虫の発生等の被害を与えている等、所有者による土地の管理が不適当なことによって、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、又は侵害するおそれがある場合に、裁判所に管理不全土地管理人の選任を求め、土地の適切な管理を実現することを目的としています。 - 裁判所に対して管理不全土地管理命令の申し立てを行うことができるのは、上記のような権利利益の侵害を受け、又はそのおそれのある利害関係人です。本件では、隣地に粗大ゴミが不法投棄され、生活環境に悪影響が生じているため、利害関係が認められるので、管理不全土地管理命令の申し立てを行うことができます。裁判所が管理不全土地管理人を選任すれば、その管理人に対し、隣地の粗大ゴミの撤去等の適切な措置を講じるよう求めることができます。
- 管理不全土地管理命令の要件は、前記のように申立人が利害関係人に該当することに加えて、①所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利・利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること、②管理命令をする必要があることです。
- そのため、裁判所に管理不全土地管理命令を出してもらうには、これらの要件を満たすことを証明するため、以下の資料を提出する必要があります。
- 土地の登記事項証明書
- 公図(地図に準ずる図面)
- 土地の住所・進入路・位置関係が分かる地図(住宅地図等)
- 現況調査報告書
- 適切な管理が必要であることが分かる写真
- ゴミの撤去等適切な管理行為を行う費用の見積書
- 自らの利害関係の内容を示す上申書及び裏付け資料
- 上記の他、場合によっては、裁判所から追加の調査や確認を求められることがあります。
- 裁判所は、管理不全土地管理命令を発令するための要件が備わっているかを確認するための審問期日を開催する場合があるほか、対象土地の所有者に対して、管理命令を発することについての意見聴取を行います(非訟事件手続法91条3項1号、同条10項)。
- また、管理不全土地管理命令の申し立てに際しては、裁判所に予納金を納める必要があります。これは対象土地の管理のための費用や、管理不全土地管理人の報酬に充てるために用いられます。予納金の額は、対象土地の状況や管理不全土地管理人が行う業務の内容を考慮して、裁判所が決定しますが、横浜地方裁判所では、予納金は20万円~22万円程度とされることが多いです。
- 管理不全土地管理人が選任され、管理業務が遂行されて目的が達せられたときは、申立または職権により管理不全土地管理人の選任処分が取り消されます。そのため、今回の問題が一度解決したとしても、その後再び管理人の選任が必要となった場合は、改めて管理不全土地管理命令の申し立てが必要となります。
そのため、本件の問題について抜本的な解決を図るためには、所有者に対する損害賠償請求や、所有権に基づく妨害予防請求等の他の法的手続を利用することを検討せざるを得ない場合もあります。