管理不全建物管理制度

 私が住んでいる自宅の隣家の2階建の木造アパートは、過去は賃貸物件として使用されていましたが、長年空家となっています。
隣家のアパートは老朽化が進んでおり、屋根材の固定が不十分で、窓の外の転落防止柵が傾いていて、これらが飛散・脱落して私の建物に被害が出る可能性があります。所有者の方に対処を求めても、「建物はもういらない。工事は費用が掛かるから行わない。」と言われてしまいました。隣家のアパートを適切に管理してもらうために、何か良い方法はないでしょうか?

  1.  本件のような場合、裁判所に、管理不全建物管理命令を申し立てて、所有者に代わって管理人に建物を管理してもらうという方法があります。
  2.  令和5年4月1日に施行された改正民法により、管理不全建物管理命令に関する規定(民法264条の14)が新設されました。これにより、一定の要件を満たす場合には、裁判所は管理不全建物管理人を選任して、その者に建物の管理を命じることができるようになりました。
     この制度は、建物の倒壊や屋根材・外壁部材の脱落・飛散のおそれがある場合等、所有者による建物の管理が不適当なことによって、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、又は侵害するおそれがある場合に、裁判所に管理不全建物管理人の選任を求め、建物の適切な管理を実現することを目的としています。
  3.  裁判所に対して管理不全建物管理命令の申し立てを行うことができるのは、上記のような権利利益の侵害を受け、又はそのおそれのある利害関係人です。本件では、屋根材の飛散や転落防止柵の脱落が発生するおそれがあり、これによって土地・建物の所有権が侵害されるおそれがあるといえ、利害関係が認められるので、管理不全建物管理命令の申し立てを行うことができます。裁判所が管理不全建物管理人を選任すれば、その管理人に対し、屋根材の飛散や転落防止柵の脱落が生じないように適切な補修などの措置を講じるよう求めることができます。
  4.  管理不全建物管理命令の要件は、前記のように申立人が利害関係人に該当することに加えて、①所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利・利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること、②管理命令をする必要があることです。
  5.   そのため、裁判所に管理不全建物管理命令を出してもらうには、これらの要件を満たすことを証明するため、以下の資料を提出する必要があります。
    1.  建物の登記事項証明書
    2.  建物図面
    3.  公図
    4.  住宅地図
    5.  現況調査報告書
    6.  適切な管理が必要であることが分かる写真
    7.  適切な管理を行うための費用見積書
    8.  自らの利害関係の内容を示す上申書及び裏付け資料
  6.  上記の他、場合によっては、裁判所から追加の調査や確認を求められることがあります。
  7.  裁判所は、管理不全建物管理命令を発令するための要件が備わっているかを確認するための審問期日を開催する場合があるほか、対象建物の所有者に対して、管理命令を発することについての意見聴取を行います(非訟事件手続法91条3項1号、同条10項)。
  8.  また、管理不全建物管理命令の申し立てに際しては、裁判所に予納金を納める必要があります。これは対象建物の管理のための費用や、管理不全建物管理人の報酬に充てるために用いられます。予納金の額は、対象建物の状況や管理不全建物管理人が行う業務の内容を考慮して、裁判所が決定しますが、横浜地方裁判所では、予納金は20万円~22万円程度とされることが多いです。