相続登記が未了で多数利害関係人が存在する土地の時効取得

  1.  不動産開発業者Aは、土地区画整理事業を計画し、行政の認可を受けました。
  2.  不動産開発業者Aが、土地区画整理事業地域内に存在する土地の所有権者を確定するための調査を行ったところ、以下の事実が判明しました。
    1.  土地区画整理事業対象地内のある甲土地の所有者は、全部事項証明書上、江戸時代生まれのBである。
    2.  しかし、Bは、明治初期に既に死亡しており、甲土地は、Bの相続人合計90名に相続されている。
    3.  Cの祖父が死亡したときに、甲土地の所有権をCが取得したとする遺産分割協議書が作成されたことがあった。
  3.  甲土地は、Bの相続人の一人であるCが畑として使用しており、Cは、土地区画整理事業に賛同していました。
  4.  そこで、不動産開発業者Aとしては、甲土地について、Cの所有にあることを確認し、Cの同意の下に、甲土地も換地処分の対象として土地区画整理事業を進めたいと考え、不動産開発業者AとCが当事務所に相談に来ました。
  5.  本件土地を使用しているCは、名義人Bの相続人の一人であるから、相続人全員と遺産分割協議を行って相続を原因とする所有権移転登記をすることも理論上は可能でした。

  6.  しかし、そのためには、90名もいる相続人全員から遺産分割協議書に実印の押印と印鑑証明書をもらう必要があり、そのうちの1人でも反対すれば、遺産分割協議は成立しないという問題がありました。
  7.  そこで、当事務所は、不動産開発業者Aに対し、以下の方法による解決を提案しました。
    1.  Cを原告、Bの相続人全員を被告として、本件土地について、時効取得を原因とする所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、勝訴判決に基づきCへの所有権移転登記を行う。
    2.  上記訴訟の準備(戸籍謄本等の取得)と並行して、Bの相続人から、「Cに対し、自己が保有する相続分を譲渡」する旨の書面を取得する(Bの相続人から、Cが相続分の譲渡を受ければ、上記訴訟で、その相続人を被告とする必要がなくなるからである)。
    3.  また、最終的に被告とすべき相続人に対しては、訴訟を提起する前に、事前に郵便で事情を説明して、上記訴訟において、出席して争う利益が乏しいこと、甲土地がCに帰属することが確定すること以外の不利益が存在しないことを理解してもらうようお願いする。
    4.  そして、上記訴訟は登記が絡むため、司法書士と協働し、訴訟を提起する前に法務局との折衝を行う。
  8.  結果的に、Bの相続人全員に理解してもらい、上記訴訟では、被告から原告の請求を争う旨の答弁書は提出されず、無事勝訴判決を得ることができました。また、司法書士と協働して、事前に法務局と折衝をしていたため、スムーズに登記をすることができました。
  9.  当事務所では、法律関係が複雑な土地の整理について、司法書士・土地家屋調査士等の専門家と連携して解決にあたっております。