所有者不明専有部分管理制度
当社が管理を受託しているマンションで、区分所有者Aが死亡しました。Aの死後、長期間にわたって管理費が支払われなくなり、さらに、Aが室内にゴミを溜めていたため、隣室から、Aが使用していた区分所有建物の居室内から異臭がするとの苦情も寄せられています。Aには、唯一の相続人Bがいましたが、Bの住民票上の住所地に手紙を送っても、「宛所尋ね当たらず」で手紙が戻ってきてしまい、居場所が分かりません。室内のゴミを撤去したり、未納の管理費を回収するために良い方法はないでしょうか?
- 所有者不明専有部分管理制度の創設
- 令和8年4月1日施行の改正区分所有法により、所有者不明専有部分管理制度が創設されました。
- 改正区分所有法46条の2第1項では、区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分について、利害関係人の請求に基づき、当該専有部分を対象として、裁判所は、所有者不明専有部分管理人を選任した上で(同条4項)、所有者不明専有部分管理命令をすることができると定められています。
- 本件では、区分所有建物の唯一の相続人Bの所在を知ることができない状態であるため、隣室の区分所有者や管理者(理事長)が利害関係人として、裁判所に所有者不明専有部分管理命令を申し立てることができます。
- この管理命令が出ると、所有者不明専有部分だけでなく、専有部分・共用部分・附属施設・建物の敷地にあり、所在等不明区分所有者が所有する動産の管理処分権も所有者不明専有部分管理人に専属することとなります(改正区分所有法46条の3第1項)。
- したがって、この所有者不明専有部分管理制度によって選任された管理人に対して、Aが所有していた専有部分内の動産・ゴミ等を売却・撤去したり、管理人が裁判所の許可を得た上で区分所有建物を任意売却して、未納の管理費の支払いをしてもらうことができます。
- 民法上の所有者不明土地建物管理制度と区分所有法の関係
- 令和5年4月1日に施行された民法において、所有者不明土地建物管理制度が新設されました(民法264条以下)が、この制度は区分所有建物への適用がありません(区分所有法6条4項)。
- そのため、区分所有建物において、区分所有者の所在等が不明である場合には、民法上の所有者不明土地建物管理制度を用いることはできませんでした。
- したがって、区分所有建物については、不在者財産管理人制度(民法25条1項)や相続財産清算人制度等、財産全体の管理人を選任する制度しか利用することができませんでした。しかし、これらの制度では、不在者や相続人の財産全体の調査が必要になり、そのために裁判所に納める予納金も高額になる等、専有部分の管理という比較的限られた目的に対して、利用者の負担が大きいものでした。
- 改正区分所有法によって、区分所有建物についても、民法と同様、所有者等不明建物について管理人による管理を委ねる制度ができ、従来の不在者財産管理人制度よりも予納金が低額になることが予定されているため、今後、所有者不明専有部分管理命令の申し立ても増えていくと予想されます。
改正区分所有法第46条の2(所有者不明専有部分管理命令)
1 裁判所は、区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることが
できない専有部分(専有部分が数人の共有に属する場合にあっては、共有
者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分の共
有部分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により
、その請求に係る専有部分又は共有持分を対象として、所有者不明専有部
分管理人(第4項に規定する所有者不明専有部分管理人をいう。第3項に
おいて同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明専有部分管理
命令」という。)をすることができる。
2 所有者不明専有部分管理命令の効力は、当該所有者不明専有部分管理
命令の対象とされた専有部分(共有持分を対象として所有者不明専有部
分管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である専有部分)又は
共用部分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産(当該所有者不明専
有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又は共有持分を有
する者が所有するものに限る。)並びに共用部分及び附属施設に関する
権利並びに敷地利用権(いずれも当該所有者不明専有部分管理命令の対
象とされた専有部分の区分所有者又は共有持分を有する者が有するもの
に限る。)
4 裁判所は、所有者不明専有部分管理命令をする場合には、当該所有者
不明専有部分管理命令において、所有者不明専有部分管理人を選任しな
ければない。
改正区分所有法第46条の3(所有者不明専有部分管理人の権限)
1 前条第4条の規定により所有者不明専有部分管理人が選任された場合
には、所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共有持
分並びに所有者不明専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分
及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権並びにこれらの管理、処分
その他の事由により所有者不明専有部分管理人が得た財産(以下「所有
者不明専有部分等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不
明専有部分管理人に専属する。
2 所有者不明専有部分管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為を
するには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可が
ないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明専有部分等の性質を変えない範囲内において、その利
用又は改良を目的とする行為