建物名義と借地権の対抗要件

 私は、借地上に父親名義(相続人は私1人です。)で登記されている建物を相続して20年以上住んでいます。これまで地代は滞りなく地主に支払ってきていますが、父が借地権者であった時から借地契約書は作成していません。このような状況で、地主が、土地所有権(底地)を第三者に売却したことで、底地を取得した買主から立ち退き請求の手紙が届きました。借地権の設定登記はしていないのですが、私は、立ち退かなければならないのでしょうか?

  1. 借地権の買主を含む第三者への対抗力について、民法、借地借家法では以下のとおり定められています。
    1.  民法の原則では、不動産の賃貸借では賃借権の登記をしなければ第三者に対抗することはできません(民法605条)。この借地権の登記は、登記簿の乙区欄に借地権の登記をすることになります。
    2.  ただ、借地権の登記をするには、土地所有者と借地人の共同申請が必要とされており、土地所有者の協力が得られなければ、借地人は借地権の登記を備えることはできません。実務上、土地所有者は、自身が所有する土地に借地権の登記をいれることを嫌うため、借地権の設定登記がされることはほとんどありません。
    3.  そのため、上記原則だけでは借地権者の保護が図れないことから、借地借家法では、借地権の登記がなくても、借地人が借地上に登記された建物を所有するときは、第三者に対しても借地権を対抗(主張)できると定めています(借地借家法10条)。
    4.  貸主が所有する土地上に、借地人が建物を建てて、借地人名義で建物登記をしていれば、土地を購入する第三者は土地上に利用権を持っている第三者がいることが分かるため、借地権に対抗要件があるとしても、第三者が不測の損害を被ることとはならないためです。
  2. 借地借家法10条に定める「登記」は、表示登記がされていることで要件を満たし、権利部の保存登記までは必要ありません(最判昭和50年2月13日民集29巻2号83頁)。
  3. もっとも、同条に定める「登記」といえるには、借地人自身の名義で登記をする必要があり、借地人の妻(最判昭和47年6月22日民集26巻5号1051頁)や、未成年の長男名義(最判昭和41年4月27日民集20巻4号870頁)等、借地人以外の名義で建物の保存登記を行っていた場合には、対抗要件としての効力は認められません。
  4. 以上から、借地権の登記がされておらず、また、借地契約書が作成されていなくても、借地上に父親名義の登記がある建物があるのであれば、亡父と唯一の相続人である現借地人の人格は同一なので、借地権を第三者に対抗することができます。言い換えれば、本件のような事例では借地権者は立ち退き請求に応じる必要はありません。もっとも、相続登記をしないとトラブルの元になりますし、令和6年4月1日より相続登記が義務化されてもいるため、早めに建物の相続登記を行っておいた方が良いです。